
CASE 09 解説
競合が半額の新製品を出してきた
問題
あなたは中堅企業向け業務管理ソフト「ワークログ」の事業責任者。月額5万円で、契約は1,200社ある。
3週間前、競合が同等機能をうたう新製品を月額2.4万円——ほぼ半額で発表した。
営業部長から「うちも下げないと全部持っていかれる。今週中に方針を決めてくれ」と迫られている。
Q1. あなたなら、まずどうする?
- A. すぐ対抗値下げを決める。半額に近い水準まで下げて、新規の流出を止める
- B. 価格は据え置く。既存1,200社の契約更新固め(年間契約化・サポート強化)に営業を振り向ける
- C. 動く前に「半額」の中身と、自社の客が何に金を払っているかを確かめる
ここで、新しい事実が判明した。
競合の発表から3週間、自社の解約率は月0.8%のまま上がっていない。
一方で新規の商談は、進行中7件のうち3件が「競合と比較したい」と保留になった。
Q2. この事実を踏まえて、あなたならどうする?
- A. 機能を絞った低価格プランを新規向けに投入する。比較の土俵から降りずに戦う
- B. 価格もプランも動かさない。解約率と商談の数字を監視しつつ、既存の複数年契約化を進める
- C. 保留になった3件に直接会いに行き、止まった理由が本当に価格なのかを確かめてから決める
評価されるのは結論ではなく、思考の順序
この問題も、選んだ結論では評価されません。競合の一手に対して、反射で応じたのか、順序を踏んで応じたのか——その思考のプロセスが評価されます。
第一に、論点の再定義。営業部長の問いは「値下げするか」ですが、本当の論点は「競合の半額は、誰の、どの判断に効いているのか」です。追加情報が示したのは、戦場が割れているという事実でした。既存客は動いておらず、効いているのは新規商談だけ。「全体として値下げすべきか」という問いのままでは、この分裂が見えません。
第二に、前提の確認。「半額」の中身は確かめましたか。機能は本当に同等か、サポートや導入支援は含まれるか、期間限定価格ではないか。業務用ソフトは乗り換えにデータ移行と再教育のコストがかかるため、既存客の価格弾力性はもともと低い。解約率0.8%横ばいはそれを裏づけます。ただし業務ソフトの解約は更新月に遅れて出る遅行指標であり、「既存は安泰」とまで言い切るのは早い。
第三に、打ち手の非対称性。全面値下げは、1,200社×月5万円=月6,000万円の収益基盤を自分の手で削る、ほぼ戻せない一手です。一方、新規限定の下位プランや導入支援の無償化なら、失うものは新規の値引き分に限定できます。同じ「価格で応じる」でも、設計次第で被害範囲がまるで違う。この差を言えるかどうかが分かれ目です。
第四に、動く条件の事前設定。「様子を見る」を選ぶなら、何を見たら動くのかを先に数字で決めておく。解約率が月1.5%を超えたら、保留商談の失注が2件続いたら——引き金を置いて初めて、様子見は「静観」ではなく「監視」になります。
トイカミ様の視点
半額という値付けは、相手の戦略の告白でもある。価格でしか差を作れないのか、体力戦に持ち込みたいのか。それを読まずに自分の価格表だけ眺めているうちは、戦場を相手に決められている。
よくある誤答パターン
反射で値下げ
「競合が下げたからうちも」は思考ではなく反射です。既存収益への打撃額を計算せずに下げると、傷は自分で作ることになります。
解約率で安心
「解約が増えていない=問題なし」は早計です。業務ソフトの解約は更新月に遅れて出る遅行指標で、先に失速するのは新規側です。
敵だけを見る
競合の価格ばかり分析して、自社の客が何に払っているかを聞かない回答。判断材料は敵陣ではなく、客の中にあります。
思考タイプについて
クイズではQ1×Q2の回答の組合せから、判断の癖を3タイプ(軍師タイプ・城主タイプ・先鋒タイプ)に整理して返しています。優劣ではなく「どこから考え始めるか」の違いです。
出題・解説監修:MIT Sloan School of Management MBA修了(経営戦略・マーケティング)。ケース問題・解説は、MBA課程のケースメソッドの型に基づいて監修しています。
