
CASE 07 解説
売上3割の大口客が「2割引にしろ」
問題
あなたは年商12億円の部品メーカーの営業担当。売上の3割を、ある1社の大口取引先が占めている。
その取引先の購買部長から「来期の契約から単価を2割下げてほしい。難しければ、調達先の見直しも考える」と告げられた。
上司は「あの客は失えない。だがうちの営業利益率は8%しかない」と頭を抱えている。
Q1. あなたなら、まずどうする?
- A. 売上3割の失注は致命傷と見て、受け入れる前提で原価側の吸収余地を社内で詰め始める
- B. 2割は無理だと伝え、こちらが応じられる上限(5%程度)を先に提示して交渉に入る
- C. 回答を保留し、なぜ「2割」なのか——要求の背景と本気度を確かめる
ここで、新しい事実が判明した。
取引先の購買部門は、すでに競合2社から相見積もりを取っていたことがわかった。
ただし他社の最安値でも、値引き幅は現行価格の12%相当。「2割」には届いていない。
Q2. この事実を踏まえて、あなたならどうする?
- A. 他社見積もりに勝てる13%前後の値引きを即提示し、切り替えの動きを止める
- B. 値引きは小幅にとどめ、失注も覚悟のうえで依存度3割を下げる顧客開拓に舵を切る
- C. 単価だけでは応じない。発注量の保証や複数年契約とセットで、段階的な値下げ案を設計する
評価されるのは結論ではなく、思考の順序
この問題に「正解の選択肢」はありません。評価されるのは、値引きに応じたか断ったかではなく、その結論に至るまでに何を確かめたかです。
第一に、論点の再定義。表面の問いは「2割引を受けるか」ですが、本当の論点は「この取引の交渉力はどちらにあるか」です。部品の調達先変更には品質認定やラインテストの費用がかかり、切り替えの痛みは相手側にもあります。値札だけを見ると、交渉は始まる前に終わっています。
第二に、前提の確認。「2割」という数字の出所です。他社の最安見積もりは12%引き。つまり「2割」は事実ではなく、交渉の起点として置かれた数字である可能性が高い。相見積もりの存在で脅しが本物とわかる一方、額面のまま受ける理由は消えました。前後で判断が変わった人は、この感覚をすでに持っています。
第三に、打ち手の非対称性。「単価だけを下げる」と「数量保証・複数年契約・仕様変更による原価低減と交換で下げる」は、同じ値下げ幅でも意味がまったく違います。前者は次回も同じ要求を招き、後者は値下げの見返りに将来の売上と交渉構造を固定できます。価格の一軸でしか考えない回答は、設計の余地を捨てています。
第四に、撤退条件と構造対応。限界利益が消えるラインを交渉前に決めておき、そこを割る条件なら降りる。そしてこの件の根っこは値引きではなく「1社に売上の3割を依存している構造」です。今回の着地がどうであれ、顧客分散の時計は今日から回し始める必要があります。
トイカミ様の視点
相手の「2割」は要求ではなく、測定器だ。こちらがどこで折れるかを測っている。値札を見る前に、切り替えの痛みが相手側にいくらあるかを見ろ。交渉力は、そこにしか宿らない。
よくある誤答パターン
額面通り受ける
「2割」という数字を検証せずに社内調整を始める回答。要求額は交渉の起点であって、事実ではありません。
価格しか見ない
単価の攻防だけで考える回答。数量・契約期間・仕様など価格以外の交換材料を出せると、設計の幅が一気に広がります。
大口を人質にする
「失えないから飲む」で思考を止める回答。失注時の実損と相手側の切り替えコストを数字で見るまで、怖さは測れません。
思考タイプについて
クイズではQ1×Q2の回答の組合せから、判断の癖を3タイプ(軍師タイプ・城主タイプ・先鋒タイプ)に整理して返しています。優劣ではなく「どこから考え始めるか」の違いです。
出題・解説監修:MIT Sloan School of Management MBA修了(経営戦略・マーケティング)。ケース問題・解説は、MBA課程のケースメソッドの型に基づいて監修しています。
